インタビュー
都会で食べられないフレンチの魅力を
オーナーシェフ
勝又登氏に聞く
オーナーシェフ 勝又登氏:
1946年、静岡県・富士市生まれ。’69年に渡欧し、オランダの日系ホテルに一年勤務。パリ、ニースでの修行後、帰国。’73年 「ビストロ・ド・ラ・シテ」(西麻布)を開店し、ビストロブームを巻き起こす。’78年 2軒目の「レストラン オー・シザーブル」(六本木)を開店。’86年 箱根の芦ノ湖を望む高台に日本初の宿泊施設付フランス料理店 「オーベルジュ オー・ミラドー」を開店。’07年4月、日本オーベルジュ協会理事長に就任した。 2012年、生産者と食文化に貢献したとのことで、農林水産省より「料理マスターズ ブロンズ賞」を受賞。2017年には「料理マスターズ シルバー賞」に昇格。
三島市にある自家栽培の畑にて。
「日本オーベルジュ誕生物語」
わ日本では、高級フレンチがフランス料理の全てだと思われていた時代のこと。ある一人の日本人青年がヨーロッパに渡り、パリで出会ったのは庶民でにぎわっていたカジュアルな居酒屋だった。青年は同じタイプの店で働きながらフランス料理を学び、やがて日本に帰って“ビストロ”という名の付いた、その当時の日本では聞いたことのないフランス料理店を開く。それが伝説の始まり「ビストロ・ド・ラ・シテ」である。
その店は開業からまもなく、在日外国人や著名人たちが噂を聞きつけて来店するようになり、青年は日本フランス料理界の異端児としてスターの座をかけあがっていった。都内に何軒もの店を持つようになったが、彼が次に想い描いていたのは地方のフランス料理店、それも宿泊施設が付いたレストランだった。青年は旅も好きで、フランス各地を巡っていたときに、食べて泊まれるオーベルジュの魅力を知った。その体験は旅の記憶と共に鮮明に残り、決して忘れることはなかった。青年、勝又登の帰国から13年、日本初のオーベルジュ「オーベルジュ オー・ミラドー」が誕生した。
勝又氏の話を聞きに箱根へ向かった。
畑での驚きや感動を料理に変えていく!
いつも“日本初”や“勝又登”の名前に隠れて、地元で野菜を栽培して使っていることまでなかなか詳細に紹介されない「オーベルジュ オー・ミラドー」。今回は「ぜひ畑を取材してください!」という勝又さんたっての依頼で、三島市にあるミラドーの野菜栽培をしている広川農園から取材は始まった。「今年は野菜成長が遅くてね…」と洩らす、農園の持ち主広川さんに畑の案内をしてもらいながら勝又さんとの出会いを聞いてみた。「箱根にミラドーができた頃、三島の朝市に勝又さんが来ていたんだけれど、野菜についてあれこれ聞いてくるし最初は変わった青年がいるなーって思いましたね。それがきっかけでミラドーさん用の野菜を作るようになったんですが、かれこれ30年近くなりました。」。
広大な畑を巡りながら、そこかしこにある野菜やハーブをかじらせてもらう。もぎたてのオクラや、クレソン、ピーマンなどどれも野菜の味が濃く、思わず「スゴイ!」の声が出た。味に主張があって舌の上に強烈な余韻を残す。「驚くでしょ?地方にあるオーベルジュのフレンチが違うのは、こういうことなんですよ」と勝又さん。「見栄え重視の野菜もありますけれど、料理用には味のバリエーションも重要。どの料理に合わせるといいのか、畑に来ると想像が広がるんです」。
さっそくこの日のディナーには、摘んだばかりの野菜やハーブが料理の付け合せに使用されていた。これぞオーベルジュならではの贅沢である。
パヴィヨン・ミラドーの客室テラスからは芦ノ湖が見える。
相模の寒スズキと箱根の足なが茸のフリカッセ
オー・ミラドー(本館)のダイニングルーム。
勝又氏が今考えていること、感じていること
オーベルジュを作ろうと思ったのは?
「フランスの地方にある名店が一つのベーシックになっているんですよ。昔は街道沿いの味自慢の旅籠という感じだったが、今やとても立派になっているオーベルジュも多くあります。自分にとってはフランス料理もいろいろなタイプの店がある中で、オーベルジュの考え方が最も強くアピールできるものとしてあったんです」
開業から20年以上になりましたが?
「ミラドー本館、パヴィヨン、コロニアルと少しずつ広げてきましたが、実はお客さんとの対話を経て現在の形になっているんです。フランスではオーベルジュが中心的な存在としてあって、牧場とか劇場、芸術家の若手の村を作ったりというのもある。料理だけでなく何かを発信していける村(オーベルジュ)を作るというのが理想像ですね」
ところで最近、気になることはありますか?
「やはり年齢的なことでしょうか。これまでは“攻め”でしたけれどそろそろ完成へ向かっていきたいという気持ちがある。フィニッシュをキレイに飾ることは気になります。あとオーナーという立場から、働くスタッフの意識を高めていくことは重要だと思っています。料理人や飲食サービスを目指す若い人が、少子化の時代ということもあって減少していますのでこれまでとは違った考えで、サービスも味付けをしていかないと難しい時代なのかなと思います」
これからオーベルジュでやりたいことはありますか?
「自分の理想に近いことがやれてきたと思っています。ですから、今は広げるよりもそこに生命を与えることが一番大切なことだと思っています。ただ大きければいいんじゃなくて、もっともっとそれを磨き上げていく。新しいきれいさと古くても大事にされた輝きとは違ということを多くの人に知ってもらいたいですね」
行ってみたい場所ってありますか?
「地中海のほうが大好きなんですよ。ネルハやコスタ・デル・ソルあたりは特に大好きな場所です。人が明るくて、そんなにお金がなくても住んでいる人たちが朗らかに暮らしている。若い頃から、貪欲にヨーロッパを巡ってきましたけれど、この年齢になってもう一度見てみたいという気持ちは強くありますね。それは単なるノスタルジーではなく、再確認することで“新たなときめき”と出会いたい。国内では、全国各地にあるオーベルジュへ旅してみたいですね」
食の世界
オーベルジュで進化した勝又流フレンチ!
料理
オー・ミラドーのオーナーシェフ勝又氏の料理は、古典フレンチをベースにしつつも、季節の地元食材が主役となるようなオーベルジュならではのフレンチ。こだわりの食材を厳選し、日本の、箱根でなければ作りえない料理となっている。ビストロ時代も含めた40年以上、フレンチの最先端を走り続けてきた経験を生かし、古典を踏まえたオリジナリティあふれる勝又流の集大成となっている。一皿ごとに出会える、食材と調理法の組み合わせの妙が見事。盛り付けも繊細さと大胆さが融合してアートフルだ。
食材
「料理の説明の時に、生産した方の個人名がたくさん出てくるんですよ」とメートル・ド・テルの戸塚さんが教えてくれた。野菜とハーブは三島山田村の自家農園で育てたものを毎日直送し、軍鶏、山羊、うさぎ、玉子、牛乳などは、天城山中の水滴く緑豊かな場所で、この地独自の飼育をして手に入れています。魚介は相模湾と駿河湾から揚がった季節感あふれるものを使用。フルーツは熱海や山梨で収穫されたもの、秋には茸の宝庫となる箱根のものを使っている。
ワイン・アルコール
ラウンジやバーでは、種類豊富なお酒が楽しめる。ハウスシャンパンともいえるPannierは食前酒として最初の一杯に最適。ワインセラーは本館にあり、ビンテージ物から手頃なものまでをストックしている。国内産では評価の高い山梨の勝沼ワインも充実。また自家製リキュール類も用意している。希望すればフレッシュハーブティーは、いつでもサービスされる。
ダイニング
オー・ミラドーのダイニングはテラス席の置かれた庭を望む、落ち着きのある小ぢんまりとした雰囲気で、夜はキャンドルが各テーブルに灯る。アジア調のコロニアル・ミラドー(右写真)は、漆黒の籐椅子と白いテーブルクロスのコントラストが印象的。バリから運んだ骨董品が非日常的な空間を作り上げている。パヴィヨン・ミラドーのメインダイニングはパーティ向け。高く取られた天井、大きく開け放たれた窓、天井には西と東の融合をモチーフにしたフレスコ画が描かれている。そして広々としたコリドーテラスとフランス風庭園が、芦ノ湖を望む高台に広がっている。
ショップ
本館には小さなショップを併設。自家製のマカロン(写真)やコンフィチュールなどミラドーの味を持ち帰ることができる。
メニュー
朝食〜PetitDejeuner
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その場で仕上げるカフェオレ
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白い野菜のスープ
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自家菜園からの採れたてサラダ
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焼きたてパン
〈クロワッサン、デニッシュなど〉 -
卵料理
〈箱根名物の黒温泉卵、スクランブルエッグに虹マスの卵を添えて〉 -
季節のジャム
(メニューは一例につき、変更する場合がございます)
夕食〜Dinner
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アミューズ
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前菜
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本日のポタージュ
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本日の魚料理
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肉料理
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デセール
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プティフール
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自家製パン
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紅茶またはコーヒー
(メニューは一例につき、変更する場合がございます)
アルバム
肉料理 | デセール(デザート) |
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フロマージュ | 自家栽培の畑 |
フレッシュハーブティー | チャペル ルミエール |
エステルーム | ジュニアスイートルーム |
プール | キッチンの勝又氏 |
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